多動性・衝動性は「わがまま」じゃない──現場での支援のヒント
「落ち着きがない」「話が止まらない」「思ったことをすぐに言ってしまう」──
こうした行動が見られると、「自己コントロールが足りない」「わがままだ」と捉えられてしまうことがあります。
しかし、それは単なる性格やわがままではありません。背景には“脳の働き方の違い”があるのです。
「止めたいのに、止まらない」——多動性とは
多動性とは、体の動きを意識的に止めにくい状態を指します。
たとえば以下のような行動が見られます:
- 座っていても手足が動き続ける
- 必要なくても急に立ち上がってしまう
- 話し出すと止まらない
これは「落ち着きがない性格」ではなく、注意や抑制に関わる脳の領域(前頭前野など)の機能調整が難しい状態に近いとされています。
【エピソード】会議中に立ち上がってしまう社員
特例子会社での会議中、30代の男性社員が話の途中で席を立ち、ホワイトボードの横をうろうろ。
上司は「静かに聞いて」と注意しますが、本人は「話は聞いてるんです」と反論。
実際に発言内容は理解しており、集中しているようにも見えるのです。
【支援のヒント】
- 座っていることより、「情報が入っているか」を重視する
- “歩きながら聞いてもOK”なルールをあらかじめ設定する
- 手元で動かせる物(ハンドスピナー等)を用意してもらう
「考えるより先に動く」——衝動性とは
衝動性は、「やってはいけない」とわかっていても、思考より先に反応が出てしまう状態です。
- 順番を待てずに割り込む
- 思ったことをすぐ口に出す
- 怒られるとわかっていても繰り返す
これは“考えなし”というより、「待つ」「抑える」という抑制機能が十分に働かないという、脳の制御の問題です。
【エピソード】思ったことを口にしてしまう
朝礼中、「このやり方、非効率じゃないですか?」と唐突に意見した若手社員。
周囲は驚き、上司からは「その言い方はよくない」と注意されました。
後で話を聞くと「ずっと気になっていて、言わないと落ち着かなくて…」とのこと。
【支援のヒント】
- 話したくなった内容を“メモする習慣”を提案する
- 「発言できる場」を事前に用意する(意見メモ回収など)
- 場にそぐわない発言のあとに叱責ではなく、“整理と翻訳”をする
「怒らない」ではなく、「補助線を引く」支援を
「ちゃんとして」「落ち着いて」と言葉で伝えても、本人の脳には届きにくいことがあります。
重要なのは、コントロールできないことに怒らず、行動をサポートする“補助線”を引くことです。
【行動を補助する支援例】
- 順番を待てずに動く →「今やること」を示すカードやToDoを机上に
- 立ち歩いてしまう → 座席の近くに立って作業できる場所を確保
- 話が止まらない → 話す時間を区切って「終わったらメモに残す」方式
おわりに──「本人の努力不足」ではなく「回路の補助」
「言っても直らない」「何度注意しても同じ」
そんなときこそ、「脳の特性」という観点からの支援が重要です。
多動性・衝動性は、工夫によって軽減できる行動のズレであり、努力不足や性格の問題ではありません。
本人の力だけでは難しい部分を、まわりが少しだけ変えることで補う。
それが、支援の第一歩になります。