なぜ言わなくていいことを言うのか?──衝動性を“扱える形”に変える支援
「また言った…」の裏にある構造
空気が凍るひと言。
本人も「言わなきゃよかった」と後悔している。
それでもまた繰り返してしまう。
そんな場面、支援現場で経験したことはないでしょうか。
「非常識だ」「空気が読めない」と見られがちな発言の中には、
実は“抑えようとしても抑えきれなかった”という構造が隠れていることがあります。
現場でよくあるケース
朝礼でのひとこと
朝礼で新しい業務ルールが説明された直後、若手の社員が発言しました。
「これ、非効率じゃないですか?」
場の空気が一気に張り詰め、上司も戸惑いながら注意をします。
本人は「すみません」と言いつつ、こう付け加えました。
「でも、気になって…言わないと落ち着かなくて」
このように、本人にとっては“意見”というより、心の中に溜まった違和感を放出するような、
「衝動的な出口」だった可能性があります。
衝動性とは何か?
衝動性のある人は、思いついた言葉や感情を「一度止める」ということが難しい傾向があります。
- 思いついたことが即座に口から出る
- 相手の反応を想像する前に言葉が出る
- 言った後で自分でも驚いたり後悔する
これは単なる「わがまま」や「考えなし」ではなく、
脳の抑制機能(前頭前野など)がうまく働きづらいという神経的な背景があります。
現場でできる具体的な工夫
衝動性への支援は、「言わないように」と言い続けることではなく、
「出しても大丈夫な形に変える」ことが基本方針になります。
1. 話す前に“書く”というワンクッションを入れる
- 言いたいことはメモに書いてから話す
- 業務中でも付箋やメモパッドを用意しておく
2. 発言できる「安全なタイミング」を設ける
- 意見交換の場・タイムを事前に設計しておく
- 「この時間に一言だけ話せる」などの枠を設定する
3. 発言の中身は“翻訳”して届ける
- 「○○って言ってたけど、“こういう意味”だよね?」と整理して返す
- 否定ではなく、“伝え方”の練習としてフィードバックする
支援の原則:「封じる」より「扱えるようにする」
衝動的な言動をただ止めようとすると、本人の中には「また怒られた」「自分はだめだ」という思いだけが残ります。
大切なのは、“出すこと”自体を否定せず、「どう扱うか」を一緒に考える姿勢です。
衝動性は、トラブルのもとではなく、「伝えたい気持ち」が先に出ただけ。
その構造を理解し、支援の設計を変えることで、関係性と職場環境の両方が変わっていきます。
まとめ:止められないことには、補助線を
「なんであんなことを言うの?」と思ったとき、
まずは「もしかして、止められなかったのかもしれない」と考えてみてください。
“出してしまう”ことは責める対象ではなく、扱い方を工夫すれば変わる行動です。
支援者の側が、「抑える」ではなく「流す方向」をつくることで、本人の安心と信頼は確実に積み重なっていきます。
明日からできることは、小さな枠づくりと、ひと言の整理から。
それだけで、衝動性と共に働く道筋が、少しずつ見えてきます。