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教員歴6年の元教員が執筆
関わってきた子どもの数述べ300人以上
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おすすめの読み方:じっくり読む
困ったイタズラですが、単なる問題行動ではありません。
実はあれ、「感覚の実験」かもしれません。
紙を切るときとは違った髪の毛を切るときの独特の抵抗感。同じハサミでも、切るものによってまったく違う手応えになります。
感覚遊びが大切と言われるのはなぜなのか、探っていきましょう。
子どもはハサミの使い方をどう学んでいる?
例えば『ハサミで切る』という運動はどのように学習されるのでしょうか?
・紙をハサミで切るとき
・ストローをハサミで切るとき
・毛糸をハサミで切るとき
それぞれ想像してみてください。
ストローは紙より力が必要で、毛糸はハサミの刃が斜めになっていると切れません。
ストローなら弾力、毛糸を刃で斜めに挟むとぐにゃっとした感覚。
この感覚フィードバックに対して、ストローなら力強く、毛糸なら刃を垂直に、といった修正をして運動出力をして行きます。
「手先を器用にしたい」と思うと、書く練習やハサミの練習など、“動き(出力)”に注目しがちです。
しかし実際の学習は、次のように進みます。
運動学習
感覚入力 → 行動 → フィードバック → 修正
運動学習の本質は「感覚入力→運動出力→感覚フィードバック→修正」の反復です。入力側が機能していなければ、出力をいくら鍛えても効率的な学習は成立しません。
「感覚知覚リハビリテーション」の要点──臨床で今日から使える視点の転換より
ADHDの子が回るのはなぜ?
ADHDの子がくるくる回ったり、ジャンプしたりを繰り返すのはなぜ?
ADHDの人がくるくる回ったりジャンプしたりするのを自己刺激行動と呼びます。
自己刺激行動をする理由は以下のように説明されます。
・退屈が苦痛なため
・集中力を維持するため
・自分を落ち着かせるため
障害がない人でも喋りながらの手作業の方が集中できる人や運動してから仕事をした方が集中できる人がいると思います。
運動出力に注目すると「授業中に座っていられない」「お店で静かにしていられない」などの問題行動に見えますが、
感覚入力という捉え方をすると『安心』や『苦痛を取り除く』といったフィードバックを得るための切実な生存戦略が見えてきます。
やりがちだけど逆効果?手伝いすぎが招く落とし穴
子どもがうまくできないとき、つい大人が手を添えてしまうことがあります。
・力を代わりに調整する
・角度を整えてあげる
これをやりすぎると、 子どもは「感覚」を十分に味わえません。
・フィードバックが弱くなる
・自分で調整する力が育ちにくくなる
ということにつながります。
障害のある人は学習できない?
「障害がある人は学習が難しい」と思っていませんか?
学習のトリガーが「フィードバック」にあると理解すれば、その可能性は無限に広がります。
• 知的障害がある場合
「食べたいものを持ってくる」「外に行きたい時にカードを出す」といった
自分のアクションに対して「希望が叶った」という明確なフィードバックを周囲が返し続けることで学習が成立します。
• 麻痺などで体が動かせない場合
たとえ寝たきりの状態でも、視線の動きを読み取り、大人が「これを選んだんだね」と反応を繰り返す。すると、本人の脳内で「自分の視線が世界を動かした」というフィードバックが完成し、コミュニケーションという学習が進んでいきます。
「適切な関わり(意図的なフィードバック)」さえあれば、どんな状況からでも人間は学び、成長することができるのです。
感覚入力が世界の解像度をあげる
子供たちが夢中で何かに触れているとき、脳の中ではそれぞれの感覚に対するフィードバックが返されていきます。
・赤ちゃんがおもちゃを舐める
・手掴みでご飯を食べる
人間は、新しい刺激に出会うと「これは以前のあれと何が違うのか?」と無意識に比較を始めます。
• 同じもの(繰り返し): 安心感、予測の確認、習熟
• 違うもの(新しい刺激): 比較、新しい学習、驚き
例えば、「硬い」と「柔らかい」の2択しかなかった世界に、小麦粘土、蜜蝋(みつろう)粘土、油粘土、砂粘土といった多様な素材が加わるとどうなるでしょうか。
「これは粘り気がある硬さ」「これは跳ね返るような硬さ」というように、中間層のデータが蓄積されます。
脳の中で起きている「回路の建設」と「整理整頓」
「感覚統合」はマルチタスクの整頓屋さん
感覚統合の仕事は、バラバラに入ってくる情報(触覚、視覚、固有受容覚など)を「交通整理」して、一つの意味のある情報にまとめ上げることです。
• 整頓前: 「ハサミの重さ」「ストローの硬さ」「切る音」がバラバラに脳に届き、脳がパニックになる。
• 整頓後(統合): 「ストローを切っている」という一つの体験としてまとめ、スムーズに反応できる状態にする。
回路形成と刈り込みは「道路の舗装工事」
「入力→出力→フィードバック→修正」というサイクルは、その整頓の「精度(スピードと正確性)」を高めていきます。
• 強化(舗装): うまくいった動き(フィードバックが良かったもの)は、シナプスが太く、伝達が速くなります。
「この感覚とこの動きの組み合わせはよく使うから、太い道路(回路)にしよう」
• 刈り込み(撤去): 無駄な動きや、ノイズになる感覚の情報は、使われないことで消去されます。
「この組み合わせは使わないから、消去してスッキリさせよう(刈り込み)」
多様な種類の感触に触れることは、脳に「どの回路を残すべきか」を正しく選ばせるための「比較材料」をたっぷり与えることなのです。
教育者としての視点
『シナプス形成と刈り込み』という視点を持つと、「なぜ失敗が必要なのか」も理解しやすくなります。
失敗した時の「あれ?切れないぞ」というフィードバックがあるからこそ、脳は「この回路は不要だ(刈り込み・修正)」と判断できるのです。
「器用さ」を育てるのは触る経験
「手先が器用になってほしい」と願うなら、「いろんな感触」に触れさせることが近道です。
シール1枚をとっても、厚み、硬さ、粘着力の違いで、指先の使い方は変わります。
• ボンボンドロップシールのように厚くて固いシールなら、指の腹を使ってはがす
• 薄くて柔らかいシールなら、爪の先ではがす。
脳は指先から届く「あ、これは破れそうだ」という微細なフィードバックを受け取り、瞬時に筋肉へ「力を抜いて」と指令を出します。
この「出力の微調整」の経験値こそが、器用さの正体なのです。
さわるのが苦手な子は?
感覚に過敏さや鈍感さがあり、特定の感覚が苦手な人がいます。
器用にしたいからといって無理に触らせるのはNG
その人にとっては刺すようにな痛みや苦痛に感じている可能性があるためです。
一気にたくさんの感覚に触れさせると考えるのではなく、嫌がらない感覚をじっくり味わうことから始めてみましょう。
ネバネバくっつくような感覚は嫌でも、
さらさらしているパスタや小麦粉(アレルギーに注意)なら触れるかもしれません。
触っても嫌じゃないもの、好きな感覚を探すことから始めてみましょう。
「ハサミの実験」から見える好奇心
ここで冒頭の話に戻ると、子供が髪の毛を切りたがるイタズラが高度な「感覚の実験」に見えてきます。
紙を切る感触と、髪の毛の束を切る独特の抵抗感は全く別物です。
切るものによってコツや手応えが変わることを、子供は本能的に楽しんでいます。
ハサミ一つとっても、紙、毛糸、布、スズランテープ……と切る対象を変えるだけで、子供の脳は「この素材にはこの力加減だ!」とフル回転で学習を始めます。
感覚の解像度が学習の土台になる
この「違いがわかる力」は、机上の学習へとつながっていきます。
● 言葉
「冷たい」「ぬるい」「あたたかい」
→ 体験があるほど、言葉が実感を伴う
● 算数的思考
「どちらが重いか」「どれくらい長いか」といった量的感覚や
「多い・少ない」だけでなく「どれくらい違うか」を体感したことがある
→ 数の理解の土台になる
● 思考力
「何が違うのか?」を考える力
→ 問題解決の基礎になる
ということもあります。
世界を細かく認識する力は、あらゆる問題解決力の源になるのです。
今日からできる「小さな工夫」
特別な教材は必要ありません。
大事なのは「少しだけ変えること」です。
- 同じ遊びで素材を変える
- 似たものを2つ並べる
- 「どっちが柔らかい?」と聞いてみる
- いつもより少しだけ条件を変える
例えば:
- 濡れた紙をちぎってみる
- 粘土に少しだけ砂を混ぜてみる
それだけで、子どもの中の“辞書”は更新されていきます。
まとめ
みなさんも、初めて触る素材を切るとき、無意識にハサミを動かす速度を緩めたり、力を入れたりしていませんか? それが、あなたの脳がフィードバックをしている瞬間です。
感覚遊びは、単なる「楽しい遊び」にとどまりません。
子どもが自分の体を使って世界をより鮮やかに理解するための、
クリエイティブな知の冒険です。

