すぐ動き回る。
注意すると反発される。
やるべきことは分かっているはずなのに、なぜか動けない。学級全体をまとめなければいけないのに、その子への対応に大きく時間を取られてしまう…。
そんな経験をした先生は少なくありません。むしろ、多くのクラスで「必ず1人はいる」と言っても過言ではありません。担任である以上、「なんとかしなくては」と気持ちが焦るのも自然なことです。
しかし、本当に「その子だけの問題」なのでしょうか。実は、子どもがうまく動けない背景には、発達特性、環境、心理的な負荷、経験の差など、さまざまな「理由」が隠れています。
「言うことを聞かない子」をどうにかしようと、力で押し切ろうとすると、うまくいかないだけでなく、学級全体が不安定になることも少なくありません。
反対に、子どもが動ける「環境」と「関係」を整えると、不思議なほどクラス全体がまとまり始めます。
この記事では、特定の生徒に頭を悩ませている先生に向けて、
「まず何から変えればいいか?」「どうすると学級全体が自然と動き始めるか?」を、発達理解と具体的な実践を交えながら整理していきます。
1. 子どもは「操作」できないけれど、「関係」と「環境」で変わる
1-1. 厳しくすれば言うことを聞く、は本当か?
学級経営に悩むと、「もっと厳しくしなければいけないのでは」「なめられてはいけない」と考えがちです。
もちろん、ルールやけじめは大切ですが、「厳しさ=子どもが動く」ではありません。
多くの場合、子どもは「怖いから一時的に従っているだけ」で、心の中では不満や不信感が蓄積していきます。
特に、発達特性のある子どもは、強い口調や圧力に対して過敏に反応し、防衛反応として「反発」「無視」「フリーズ(固まる)」のような行動を取ることがあります。
1-2. 信頼している人の話は自然と聞きたくなる
そもそも人間は、信頼している人、安心できる人の話を「自分から聞きたくなる」ものです。
子どもも同じで、次のような先生には自然と心を開きやすくなります。
- 自分の話をちゃんと聞いてくれる
- 失敗しても、まず話を聞こうとしてくれる
- できたことを見つけて認めてくれる
- クラス全体を大切にしつつ、自分のことも気にかけてくれる
「言うことを聞かせる技術」よりも、「この先生になら話を聞いてみようと思える関係」を作る努力が、結果的に学級経営の近道になります。
1-3. 問題行動には必ず理由がある
子どもがやらないこと、できないことには必ず理由があります。
- 発達段階的に、まだ難しい
- 指示の量が多すぎて処理しきれない
- 不安や緊張が強く、行動に移せない
- 以前の経験から「どうせ怒られる」と思っている
- 家庭や友達関係で別のストレスを抱えている
いわゆる「問題行動」と呼ばれるものは、子どもが自分を守るために身につけた防衛反応であることも少なくありません。
行動そのものだけを見ると「困った子」ですが、背景を理解すると「そうならざるを得なかった子」に見え方が変わります。
2. 「悪いところ探し」から「良いところ探し」に視点を切り替える
2-1. 問題行動を消そうとすると、悪いところばかりが目に入る
担任として「この行動をやめさせなければ」「クラスのために直さなければ」と思うのは自然なことです。
しかし、「やめさせる」「直す」に意識が集中すると、次のような状態になりやすくなります。
- その子の良くない部分ばかり気になる
- できていることが目に入らなくなる
- 指導が「注意」「叱る」中心になる
- 子どもも「どうせ怒られる」と感じやすくなる
結果として、先生も子どもも苦しくなっていきます。
2-2. 当たり前の行動でも「良い面」として意識して見る
視点を切り替えるための第一歩は、「少しでも良い部分」を意識して見つけることです。
それは、特別なことでなくて構いません。
- 時間になったら席に戻ってこられた
- ノートを開くのが昨日より早くなった
- 友達の話に、少しだけ耳を傾けていた
- 大きなトラブルにはならなかった
今まで「当たり前だからスルー」していた行動を、あえて「できている」として自分の中でカウントしていくと、子どもを見る目が少しずつ変わっていきます。
2-3. 良い面を手がかりに、関わり方のヒントが見えてくる
良い面を意識して見るようになると、その子への関わり方のヒントが見えやすくなります。
- 友達との会話は楽しそう → 人とのやり取りが好き。説明役や発表役を任せてみる。
- 興味のある話題だと集中できる → 好きなものを例に授業とつなげてみる。
- 体を動かしていると落ち着く → 配達係や板書を手伝ってもらう役割を増やしてみる。
「良い面を増やすにはどうするか?」と発想を変えることで、指導が少しずつ前向きなものに変わっていきます。
3. 個別対応を増やしすぎないための「全体に効く工夫」
3-1. 個別支援が増えすぎると担任がもたない
学級にはさまざまな特性の子どもがいます。
1人1人に合わせて個別に対応しようとすると、担任の時間もエネルギーもあっという間に限界を迎えます。
大切なのは、「個別に役立つ工夫の中から、クラス全体にも役立つものを選ぶ」視点です。
特定の子のために始めた工夫が、結果的に多くの子の学びやすさにつながることは、現場ではよくあります。
3-2. 集中力が途切れやすい子には「全員で動く」時間をつくる
授業中、どうしても体を動かしたくなってしまう子がいると、「また立ち歩いている」「また注意しないと」とイライラしてしまいがちです。
そんなときにおすすめなのが、「クラス全員で数秒だけ体を動かす時間」をあえて作ってしまう方法です。
- ジャンプを10回してから、すぐに席に座る
- 首や肩を回すストレッチを数秒だけしてから授業に戻る
これだけでも、多くの子どもの集中状態がリセットされ、「よし、ここからまた頑張ろう」という空気が生まれます。
大切なのは、長時間やるのではなく、数秒〜十数秒でメリハリをつけることです。
「動きたくなる子」だけを注意して押さえ込むのではなく、クラス全体で一度動いてから、もう一度座る。
それだけで、その子に向けるイライラも減り、結果的に学級全体の安定につながります。
3-3. 指示が通りにくい子には「見える指示」を
「話したはずなのに、やってくれない」「さっき説明したのに、聞いていないのかな?」
そう感じる場面は、どの学級にもあると思います。
実は、耳からの情報だけでは処理が難しい子どもは少なくありません。視覚優位の子にとって、言葉だけの指示はあっという間に頭の中から消えてしまいます。
そこで有効なのが、「指示を目で見える形で残す」工夫です。
- 黒板にやることを箇条書きにする
- 実際に手本を見せながら説明する
- プリントの使い方などを図や写真で示す
これは、特定の子どものためだけではなく、実は多くの子どもにとっても分かりやすい方法です。
「見れば分かる」状態を作っておくと、説明の手間も減り、授業もスムーズに進みやすくなります。
4. 指名計画と授業理解は「その子が持っている情報」から考える
4-1. 子どもが持っている情報は一人ひとり違う
同じ授業をしていても、「すぐに理解できる子」と「なかなかついていけない子」がいます。
その差は、単に能力だけでなく、「今までの経験」や「持っている背景知識」の違いから生まれることが多いです。
例えば、次のような情報は、授業の理解に直接影響します。
- 家庭でよく話題になること
- 好きな遊びや、はまっているもの
- 家族構成や、家での過ごし方
- これまでの学習で得てきた知識や経験
日常の会話の中でこうした情報を少しずつつかんでおくと、
「この子はこの話題ならきっとイメージしやすい」「この子はここでつまずきやすそうだ」という予測が立てやすくなり、指名や発問の計画にも活かせます。
4-2. 掲示物や環境で「土台となる知識」をさりげなく増やす
授業の理解を支える「土台」を整えるために、教室環境を活用することもできます。
- 季節のものを教室に飾り、自然に話題にする
- 習った漢字を、子どもが目にしやすい場所に貼る
- ただの漢字ポスターではなく、ものや興味と関連づけた掲示にする
- 都道府県や英語の歌などを、BGMのように流しておく
ただ貼っておくだけの掲示物は、意外と子どもは見ていません。
授業や日常会話の中で、「黒板のあの絵を見て」「壁に貼ってある中から一つ探してみよう」など、クイズのように取り上げると、一気に子どもの目が向きやすくなります。
こうした「さりげない仕掛け」を積み重ねていくことで、どんな子でも授業を理解しやすくなる土台が整っていきます。
5. 発達理解は、保護者対応の強い味方になる
5-1. 「できない」の背景を説明できると、保護者の安心感が変わる
保護者からの相談でよく聞かれるのは、「うちの子はこれができない」「家でこんな行動に困っている」という声です。
発達の知識があると、こうした相談に対して次のような説明がしやすくなります。
- その年齢なら、まだ難しいこと
- 特性上、時間がかかりやすいこと
- 環境を少し変えると楽になること
「その子がおかしいから」ではなく、「発達や特性の違いとしてこういう傾向がある」と説明できるだけで、保護者の受け止め方は大きく変わります。
また、具体的な対応のヒントを伝えられると、保護者会や個別面談での信頼関係も築きやすくなります。
5-2. 過度な要求に見えても、背景には「心配」があることが多い
ときには、「これはさすがに無理では…」と感じるお願いや、学校側から見ると現実的ではない要望が出てくることもあります。
ただ、多くの保護者は、学校全体の様子や、集団で動くときの大変さをイメージしにくい立場にいます。
自分の子どもの状況だけを見て、「なんとかしてあげたい」という気持ちだけが膨らんでしまうこともあります。
そこで大切なのは、「めんどくさい親」と決めつけることではなく、次のように丁寧に伝えることです。
- 今の学級や学校の様子
- 集団で動くときに必要な配慮やルール
- 学校としてできること・難しいこと
感情的にぶつかるのではなく、「こういう状況なので、この部分は対応できます」「ここから先は難しいですが、代わりにこういう方法なら可能です」と整理して話すと、納得してくださる保護者も多くいます。
6. まとめ:「言うことを聞かせる」から「動ける環境と関係をつくる」へ
特定の生徒に頭を悩ませていると、「どうすればこの子は言うことを聞くのか」という発想になりがちです。
ですが、子どもは「操作する対象」ではなく、「関係」と「環境」の中で育っていく存在です。
子どもがうまく動けないときは、次の3つの視点から見直してみてください。
- この子は、何を守ろうとしているのか?(防衛反応としての行動)
- この子の「良い面」はどこにあるか?(良い行動を増やす発想)
- 個別対応ではなく、クラス全体にも役立つ工夫にできないか?(全員に効く配慮)
「言うことを聞かせる」から、「自然と動けるような関係と環境をつくる」へ。
視点を少し変えるだけで、学級は今よりずっと落ち着き、子どもたちの良さも見えやすくなっていきます。
特定の生徒に悩まされている今こそ、学級経営の軸を見直すチャンスです。
子どもたちの行動の裏側にある「理由」に目を向けながら、先生自身が少しでも楽に、そして安心して子どもたちと向き合えるようなヒントになれば幸いです。