義足の防災士から学ぶ『障害者の防災対策』レビュー|企業の防災担当が見落としがちな前提
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教員歴6年の元教員が執筆
関わってきた子どもの数述べ300人以上
2025年12月5日発売の『義足の防災士 障害者の防災対策』(櫻たかこさん著)を、発売日に読みました。
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障害のある人の防災を正面から扱った本はまだまだ少なく、
というモヤモヤがずっとあったので、迷わず手に取りました。
この記事では、
- 本の概要
- 学びになったポイント
- 読者として少し気になった点
- 企業の防災・人事担当なら、どう活かせそうか
を、一読者としてまとめてみます。
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本の概要:どんな視点から「障害者の防災」を描いた本か
本書は、義足ユーザーであり防災士でもある著者が、自身の経験と取材を通して「障害者の防災」を考える一冊です。
主なテーマは、
- 災害時に障害のある人が直面する現実
- 企業における障害者の防災対策
- 当事者の声が届きにくい構造
など。
特に、「企業の防災マニュアル」に踏み込んでいる点が印象的でした。
“防災”という言葉はよく聞いても、「職場の障害者防災」となると、具体的に議論される機会はまだ多くありません。
学び①:「全員の安全確保」の前提は、本当に“全員”か?
多くの企業の防災マニュアルには、
「全員の安全確保」
と書かれています。
けれど、その「全員」のイメージの中に、義足ユーザーや車いすユーザー、視覚障害・聴覚障害のある人は、本当に入っているのでしょうか。
本書では、
- 多くのマニュアルが「健常者を前提」に作られていること
- 東日本大震災では、障害者の死亡率が健常者の2倍以上だったこと
という事実が示されます。
また、
- 「すぐに避難」が前提になっている一方で、そもそも“すぐに動けない人”がいること
- 義足・車いすなど補助具のトラブルが命を左右するのに、その想定がマニュアルに入っていない企業がほとんどであること
といった指摘は、企業の防災を考えるうえでも避けて通れないポイントだと感じました。
職場のマニュアルには、
「歩行が難しい人」や「補助具を使う人」の避難の手順が、具体的に書いてあるか?
――この問いは、読んでいて何度も頭に浮かびました。
学び②:物理的支援だけでなく、心理・情報の支援も必要
もうひとつ大きかったのは、「物理的な支援」だけにとどまらない視点です。
- 障害のある人ほど、災害時の情報が届きにくい
- 周囲の人は自分の避難に精一杯で、助けたくても動けないこともある
- 一方で、当事者側も「助けてください」と声を上げにくい
といった、板挟みのような状況が描かれます。
著者が、
周りは自分の避難で必死で、義足の自分を助けてくれない。
でも、自分から「助けて」とは言い出しにくい。
と語る場面は、私自身の経験とも重なりました。
妊娠中、電車で席が空かず、周囲も気づいていないように見える。
でも、自分から「席を譲ってください」と言うのも難しい。
気まずさと遠慮の中で、立ち続けてしまう――そんな感覚です。
この“言い出しにくさ”は、障害の有無に関わらず、多くの人が共通して持っているものだと思います。
だからこそ、「気づいた側がどう声をかけるか」「声をかけやすい関係を平時から作れているか」が、防災にも直結するのだと感じました。
共感したメッセージ:特別扱いではなく、「存在を無視しないでほしい」
本書の中で特に心に残ったのは、
- 障害者は「避難が遅れる存在」ではなく、適切な支援があればしっかり避難できる存在であること
- 「特別扱いしてほしいわけじゃない。存在を無視しないでほしい。安全に逃げる機会を平等に与えてほしい」
というメッセージです。
ここには、「かわいそうな存在」としてではなく、
「一緒に働く仲間として、同じように生き延びる権利を持つ人」として関わってほしい、という願いが込められていると感じました。
防災マニュアルを作るとき、もし関わるメンバーが
- 中高年男性ばかり
- 身体的な障害も、妊娠・育児も、介護も経験していない人ばかり
だとしたら、どうしても“想定”が偏ってしまいます。
だからこそ、
- 女性
- 妊婦
- さまざまな障害種
- 子ども連れ など
いろいろな立場の人がマニュアルづくりに関わることの大切さも、改めて考えさせられました。
読者として気になったこと①:企業目線への“橋渡し”がもう一歩あると嬉しい
ここからは、あくまで一読者として感じた「もっとこうだったら読み手が広がりそう」というポイントです。
本書は、当事者としての不安、孤独感などが率直に描かれています。
その正直さがこの本の良さでもある一方で、
- 障害者に馴染みのない読み手
- まだ理解が浅い企業の経営層
にとっては、感情面が強く伝わりすぎて、
「大変なのはわかるけど、そこまでして対応しなきゃいけないの?」
と誤解されてしまうリスクも、少し感じました。
実際には、障害者の防災をきちんと考えることは、
- 災害時に怪我をして動けなくなった人
- 高齢の社員や来客
- 妊婦・子連れの人 など
誰もが一時的に「動きにくい状態」になったときにも役立つ視点です。
この「実は全員の安全性が上がる」というポイントが、企業目線のメリットとして、もう少し具体的に書かれていたら、
- 経営者
- 人事・労務担当
- 防災担当
にも、より届きやすくなるのではないかと感じました。
読者として気になったこと②:防災訓練だけで解決する話ではないのでは?
もう一つ、考えさせられたのは「配慮のある防災訓練」というテーマです。
もちろん、防災訓練の工夫はとても大事です。
ただ、現実の職場を思い浮かべると、
- そもそも防災訓練をほとんどしていない企業
- 年に1回、形式的に避難するだけの訓練
- マニュアルも「とりあえず作ったまま」の状態
というところも多いのではないでしょうか。
そう考えると、
- 災害時だけ特別に配慮する、という発想では足りない
- 日常的な障害理解や合理的配慮、コミュニケーションの土台があってこそ、訓練が機能する
という視点も、あわせて語られるとより現実的だと感じました。
「障害者の防災を整えること」は、
- 災害時の対応だけでなく、
- 普段の職場づくりそのもの
と強く結びついているテーマだと思います。
企業の防災・人事担当向けに整理してみると…
本書を読んで、私なりに「企業目線の言葉」に置き換えてみると、こんな整理ができそうです。
なぜ“障害者の防災”に取り組む必要があるのか(企業にとってのメリット)
- 災害時の人的被害を減らせる(社員・来客含めて)
- 事業継続計画(BCP)の実効性が高まる
- 安全配慮義務・合理的配慮の観点から、法的リスクを減らせる
- 多様性・インクルージョンを実行する企業としての信頼度が上がる
- 「いつ・誰が・どこで」障害を負うかわからない。災害時には、誰もが一時的に“動きにくい人”になる可能性がある
読んでから変えたくなったこと
この本を読んで、「障害者の防災」をもっと具体的に考えたくなりました。
特に気になっているのは、
- 発達障害のある人の防災
- 感覚過敏・情報処理の特性がある人への配慮
- 企業での障害者雇用と防災をどうつなげるか
などです。
障害者の防災は、まだ情報が少ない分野だと感じています。
今後は、関連する資料や実践事例を調べながら、自分なりに整理していきたいと思います。
どんな人におすすめの本か
この本は、とくにこんな人におすすめです。
- 企業の防災担当者
- 人事・労務担当(障害者雇用に関わっている人)
- 障害のある社員と一緒に働く上司・同僚
- 自治体や福祉施設で防災計画をつくっている人
読むときには、
- 当事者の感情の部分
- 課題の指摘
- 企業への提案
が一緒に語られているので、感情の揺れの部分が強く感じられることもあるかもしれません。
その場合は、いったん距離を置いて、
「実際に起きている困りごと」
「企業として見直せるポイント」
に注目して読み直してみると、また違った発見があると思います。
まとめ:障害者防災を考える「スタート地点」として
『義足の防災士 障害者の防災対策』は、
- 当事者のリアルな声から、
- 「いまの防災では想定されていない人たち」の存在を突きつけてくれる本
だと感じました。
一方で、
- 企業目線のメリット
- 日常の職場づくりとのつながり
などは、読む側が補って考えていく余地もあると感じています。
それでも、
「そもそも、自分たちの防災は誰を前提にしているのか?」
という根本的な問いを投げかけてくれる一冊として、
企業の防災・人事担当の方には、ぜひ一度手に取ってみてほしい本だと思います。
※本記事は書籍の内容を要約したレビューであり、引用は必要最小限にとどめています。