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学級経営が大変なあなたへ|「上手い先生」の暗黙知を見える化して、潰れないクラスを育てる方法

学級経営が大変なあなたへ|「上手い先生」の暗黙知を見える化して、潰れないクラスを育てる方法

 

教員歴6年の元教員が執筆

関わってきた子どもの数述べ300人以上

 

教師になって最初に感じたのは、「思っていた仕事と全然違う」という違和感でした。
授業づくりや勉強を教えることよりも、学級経営・児童生徒指導・事務仕事・宿題チェック・校務分掌・保護者対応……。
気づけば「黒板の前に立つ時間」より、「それ以外の仕事」に追われている自分がいました。そもそも、若手がいきなり1クラスを一人で任されるという構造自体、他の業種ではなかなかありません。

右も左も分からないまま、とにかく目の前の仕事をこなすだけで精一杯。
振り返ると、大変だったのは当然だとも思います。

そんな中、同じ新人なのに、なぜか最初から学級経営が「上手い人」がいました。
「そろそろクラスを引き締めないとダメだよね」と当たり前のように言える同僚を見て、
「その感覚、どこで学んだの?」「誰か教えてくれてもいいのに」と、何度も感じました。

正直なところ、私は「テストで何点を切ったら“普通にまずい”のか」「どのラインから支援を入れるべきなのか」といった基準すら、よく分からないままスタートしていました。
学級経営にはたしかに“コツ”があるのに、その多くはベテランの頭の中にある暗黙知としてとどまり、若手に言語化されて渡されることがほとんどありません。

このロードマップは、そうした「上手い先生」が無意識に使っている暗黙知を見える化し、4月〜3月の1年間の流れに沿って整理した「地図」です。

こんなふうに感じていませんか?

  • 毎日全力なのに、クラスがなかなか落ち着かない
  • 学級経営が上手い先生と、自分の違いがよく分からない
  • 「自分には向いていないのかも」と、こっそり感じている

実は、学級経営の「大変さ」には、先生の資質だけでなく、1年の中で“崩れやすい時期”という波も大きく関わっています。
この記事では、その波を4つのフェーズに分けて、「上手い先生」が無意識にやっている見方と動き方を、言葉にしていきます。

この記事を読み終えるころには、

  • 自分やクラスのしんどさを「1年のどの位置のしんどさか」と説明できるようになること
  • 「今のフェーズで、最低限ここだけ押さえておこう」と決められること

をゴールにしています。

1年間は4つのフェーズで動いている

学級経営の1年は、ざっくりと次の4つのフェーズで見ると、見通しが立ちやすくなります。

時期 フェーズ 主なテーマ
4〜6月 関係づくりと土台構築期 信頼とルールを「育てる」。全体より「誰を見るか」を意識
7〜9月 中だるみ&再スタート期 崩れやすさと夏休み前後のメンタルに要注意
10〜12月 固定化と表面化の山場 「なんとかしていたもの」が限界を迎える時期
1〜3月 振り返りとバトン渡し期 クラスの印象づくりと、次年度への引き継ぎ

ベテランの先生は、このフェーズ感覚を自然と持っていることが多いです。
「この時期は、この子たちを優先して見よう」「ここは授業を削ってでも関係づくりに時間を使おう」といった判断を、無意識に切り替えています。
いわば、「どの時期にどれだけ関係を“貯金”しておくか」「どこで無理をしないか」という暗黙知のルールを、経験的に身につけているイメージです。

それを「センス」や「経験」で片づけるのではなく、誰でも学べる判断基準として見える化していくのが、このロードマップの目的です。

4〜6月:信頼関係を“蓄える”時期|肩書きではなく人間関係で動かす

「黄金の3日間」と厳しさ信仰への違和感

新年度が始まると、よく「黄金の3日間だから最初に叱っておけ」「舐められないように厳しく」といったアドバイスを耳にします。
まるで「厳しい先生=有能」「優しい先生=ダメ」のような語られ方をすることもありました。

でも実際には、先生にも特性があります。
声を張り上げて一喝するのが得意な人もいれば、静かに関係を作る方が向いている人もいます。
それなのに、自分の経験談だけをもとに「こうすべきだ」と語る人の話をそのまま当てはめるのは、けっこう危険です。

私自身は、そういう発言をする人に対して、

「それはあなたには合っていたんだと思う。でも自分には同じやり方はできない」と感じることが多く、
ある意味では「その人にはそれがよかったんだな」と、一歩引いて見ていました。

また、厳しく力で抑えたクラスは、一見静かに見えることがありますが、子どもの中に不満が溜まっていて、別の場面で爆発することもあります。
「自分の言うことは聞くのに、他の先生になると乱れる」というクラスは、正直言って半人前です。
どんな先生に変わってもやっていけるクラスを育てることの方が、長い目で見て大切だと感じています。

肩書きではなく「関係」で動く

先生になりたてのころは、「先生なんだから言うことを聞くべき」と思いがちです。
でも、結局は人間同士。子どもたちは「先生だから」ではなく、

  • この人の話なら素直に聞ける

と感じるかどうかで、行動を変えます。

一度、自分自身のことを振り返ってみると分かりやすいです。あなたには、

  • この人の話なら素直に聞ける
  • この人の言うことは、あまり聞きたくない

という人がいないでしょうか。

私の場合、「自分の経験則こそ正義」と決めつけ、「もっと厳しくした方がいいよ」と、私には苦手な方法を強く勧めてくる人は苦手でした。
逆に、私の良い点を見つけて認めてくれたり、話を聞いてくれたりする人の話は、自然と聞きたくなりました。

子どもも同じです。
まずは相手の良さを見つけて認めること。
その上で、「こうすると、もっとよくなるよ」と伝えた方が、指導はずっと入りやすくなります。

お試し行動への対応:正論をぶつけない

新しいクラスになったときや、信頼関係がまだできていないとき、わざと悪いことをして「この先生はどんな反応をするんだろう?」と試してくる子がいます。

このときに、正論だけで頭ごなしに注意すると、

  • 「あ、そういう先生ね」とラベルを貼られる
  • 子どもは本音を出さなくなる

ということが起きがちです。

私がよくやるのは、

  • 許すわけでもない
  • 頭ごなしに怒るわけでもない

という絶妙なラインを探ることでした。

具体的には、「違う話を振る」「その子のことを知る態度をとる」ようにします。

  • 今ハマっていることは何か
  • どんな良いところがあるか
  • どんなときに力を発揮しているのか

こうしたプラスの面に着目しながら話をしていくことで、少しずつ信頼関係が育っていきます。
子どもが好きだと言っていたゲームを自分でも家でやってみて、「あのボス、めちゃくちゃ強くない?」と話をすると、指導の入りやすさが驚くほど変わった経験もあります。

先生自身のコンディションも「時期性」がある

私自身は、毎年5月と11月に体調を崩しやすい傾向がありました。
「5月病」という言葉もあるように、4月の緊張が解けてドッと疲れが出る時期です。

数年勤めると、「自分はこの時期にしんどくなりやすい」と分かってくることがあります。
私は、休む日もありましたし、それで良かったと思っています。
先生も人間なので、自分の波を知っておくことは、学級経営の一部だと感じています。

7〜9月:中だるみと再スタート|ここで子どもが折れる前に

7月:中だるみと疲れが重なる月

1学期も終盤に近づくと、子どもも先生も疲れが溜まってきます。
行事がひと段落すると、目標がなくなって、なんとなくダラっとした空気になることも多いです。

特に、行事がない時期はクラスがふわふわしやすく、

  • ちょっとしたふざけがエスカレートしたり
  • 些細な一言をきっかけにケンカになったり

といったトラブルも増えがちです。

この時期は、「もう一度、クラスのルールや大事にしたいことを確認する」時間を意識的に取りたいところです。

夏休み前後の「心のリスク」に目を向ける

夏休み前後は、子どもの心の状態が不安定になりやすい時期だと感じています。
統計的にも、夏休み明け前後は子どもの自死が問題として指摘されることが多く、「なんとなく元気がない」「朝がつらそう」といったサインには、特に注意を払う必要があります。

生活リズムが崩れたり、家庭と学校のギャップに戸惑ったり、「学校に戻りたくない」という気持ちを抱える子もいます。

夏休み明けは、「2学期のスタート」ではなく、「もう一度、4月からやり直すつもり」で関係づくりをやり直すイメージを持つと、少し構え方が変わります。
これもまた、ベテランの先生が持っている暗黙知のひとつです。

天気や行事の有無が子どもに与える影響

経験上、天気や行事の有無も、クラスの安定にかなり影響していました。

  • 雨の日が続くと、外で発散できず、教室内でのトラブルが増える
  • 行事が控えているときは、かえってクラスが締まりやすい
  • 逆に、行事が終わった後の「燃え尽き期」は、だれやすい

「今日は雨だから、少しソワソワした雰囲気になりそうだな」
「大きな行事の後だから、気が抜けてしまう子が出るかも」
そんな風に事前に予測しておくだけでも、構え方が変わります。

目立つ子だけでなく、「頑張り過ぎている子」にも目を向ける

問題行動が多い子は、どうしても目に付きます。
でも実際には、「当たり前のことを当たり前にやっている子」の中にも、かなり無理をしている子がいます。

クラスではにこにこしていても、家ではストレスで暴れてしまう子もいました。
そういう子ほど、「ちゃんとしているから大丈夫」と見なされがちです。

だからこそ、

  • しっかりやっている子にこそ、意識的に声をかける
  • 「いつも助かっているよ」と具体的に伝える

こうした小さな声かけが、その子の「ここにいてもいい」という感覚を支えてくれることがあります。

10〜12月:抑えが効かなくなる山場|信頼関係の真価が問われる

「今までなんとかしていた子」が限界を迎える

私の経験では、11月は毎年かなり大変な時期でした。
これまで力で抑えてきた子が、ここで抑えが効かなくなってしまうこともあります。

通知表・人事・行事が重なり、担任自身も余裕がありません。
「この子をどうしたらいいのか」「良いところなんて一つもない」と思ってしまいそうになる瞬間もありました。

実際に私も、クラスが崩れそうで不安になり、管理職に泣きついたことがあります。
当時の私はそれを「自分の弱さ」だと思っていましたが、今振り返ると、ここで一人で抱え込まないことこそ、ベテランが持っている学級経営の暗黙知の一つだったと感じています。

そのときに、「一人で抱えなくていい」と言ってもらえたことで救われました。

「いいところなんて一つもない」と思ってしまったときに

大変な子ほど、悪いところばかりが目に入りやすくなります。
でも、どんな子にも必ず良い面はあります。

当たり前に登校していること、授業中に1回でも発言できたこと、行事の準備でほんの少し手伝ってくれたこと。
一見小さく見えることも、実はその子にとっては大きな一歩だったりします。

行動の「問題」だけに目を奪われるのではなく、「その子なりに頑張っているところ」を意識的に探すことで、指導の入り口が見えてくることがあります。

他の先生を巻き込むことで見えるもの

自分だけで抱え込むと、どうしても視野が狭くなります。
私は、「他の先生にあえて入ってもらう」ことが、とても役に立ちました。

  • 男子のことで難しいときは、男の先生と一緒に遊んでもらい、様子を聞く
  • 逆に女子のことは、自分がじっくり話を聞く
  • 3月には、6年生の中堅の先生に給食の時間に来てもらい、一緒にクラスの子と食べてもらった

別の人が入ることで、クラスの雰囲気が少し変わることがあります。
また、自分が見落としていた子の良さや、別の関わり方のヒントをもらえることも多くありました。

学級経営は、「担任一人の責任」だと思わされがちですが、実際には学校全体で支えるべき仕事だと、今は強く感じています。
「必要なときには他の大人を巻き込む」というのも、学級経営の重要な暗黙知だと思います。

1〜3月:まとめとバトン渡し|「このクラスでよかった」と思えるように

3月は「印象を仕上げる」時期

1年間の最後の数週間は、子どもにとって「このクラスはどんなクラスだったか」の印象が強く残る時期です。
大きなトラブルがなくても、なんとなくバタバタして終わってしまうと、「よく分からないまま終わった学年」になってしまうこともあります。

逆に、

  • 1年間でできるようになったことを振り返る
  • お互いの良さを伝え合う時間を作る
  • 「このクラスでよかった」と一人でも多くの子が思えるような場面を意識する

こうした小さな積み重ねが、子どもたちの「学校観」や「自己イメージ」に大きく影響します。

引き継ぎは「問題リスト」ではなく「関わり方のヒント」を

引き継ぎでつい書いてしまいがちなのは、「問題行動の羅列」です。
もちろん、トラブルの履歴を残すことも大切ですが、それだけでは次の担任が構えすぎてしまう危険もあります。

私が意識していたのは、

  • どんなときにうまくいったか
  • どんな関わりをすると落ち着きやすいか
  • どこまでなら任せられるか

といった「関わり方のヒント」も一緒に残すことです。
「問題」だけでなく「可能性」もセットで渡すことで、次の先生も少し動きやすくなります。

保護者の気持ちと、構造上のズレ

子どもの裏には、必ず保護者がいます。
4月は保護者も不安です。学校の様子も、先生の人柄も分からない中で、子どもを預けています。

強い要求をしてくる保護者を見ると、

  • 「自分の子どものことしか考えていない」
  • 「こっちも大変なのに」

と感じてしまうこともあるかもしれません。

でも、保護者は基本的に「自分の子ども」のことで頭がいっぱいです。
クラス全体の様子や、他の子どもたちとのバランスを知ることは難しい構造になっています。

一方で、何も言ってこない協力的な保護者もいます。
不満が全くないわけではなく、「言わないでいてくれている」のかもしれない、と私は感じていました。

保護者対応で悩んだときは、

  • その要求の裏にどんな不安があるのか
  • クラス全体の状況を保護者が知らないことによるズレはないか

そんな視点を一度挟んでみると、関わり方が少し変わるかもしれません。

年間トラブル・事故・生活指導ネタカレンダー(小学校向け)

最後に、朝の会や学級活動で使える「この時期、こんなことに気をつけたい」というネタを、簡単にまとめておきます。
学年によって事故の起こり方が違うので、現場の状況に合わせてアレンジしてください。

注意したいこと・話しておきたいこと
4月 新しい教室・校舎での転倒、階段の上り下り、机や棚の角。1・2年生は特に、廊下を走らない・押さない・ふざけない話を具体的に。
5〜6月 雨の日の傘でのふざけ(振り回す・刺すふりをする)、視界不良による交通事故。長靴やレインコートで動きにくくなることも含めて確認。
7月 プール・水遊び・熱中症。「水は楽しいけど、危険もある」ことを、動画や具体例を使って話せると◎。
8〜9月 生活リズムの乱れ、朝起きられない、だるさ。「しんどいときに誰に相談していいか」を共有しておく。
10〜11月 目立たないいじめ・からかい・仲間外し。「冗談」と「傷つける」の境目を言語化しておく。
12月〜1月 暗くなる時間が早くなることによる、防犯・交通安全。冬休み中のゲーム・動画・SNSとの付き合い方も。
2〜3月 学年末の浮ついた雰囲気、外遊び中の事故。卒業・進級への不安と期待を共有できる場をつくる。

おわりに|「うまくいかない」を全部、自分のせいにしないで

学級がうまくいかないとき、「自分の力不足だ」と自分を責めがちになります。
でも、クラスの状態は、

  • 時期的な波
  • 子どもの背景
  • 学校全体の文化
  • 先生自身のコンディション

など、さまざまな要因が重なって生まれています。

このロードマップは、「必ず成功するマニュアル」ではありません。
ただ、「今はこういう波が来やすい時期なんだ」と気づくための地図として、使ってもらえたら嬉しいです。

毎年のように同じ時期にしんどくなる人もいるかもしれません。
それは、あなたがダメだからではなく、「その時期がそもそも難しい」可能性も高いです。

どうか全部を一人で背負わず、

  • 同僚や管理職に頼る
  • 専門職や外部の支援につなぐ
  • 自分の体調やメンタルを守る

ことも、学級経営の大事な一部だと考えてもらえたらと思います。

この1年が苦しかった人ほど、来年度は「地図を持って」スタートできます。
あなた自身の経験も、きっと誰かの学級経営の暗黙知を言語化する力になります。

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